「境界型糖尿病は、まだ病気じゃないから、病院に行かなくても自分で食事や運動に気をつければいいだろう」そう考える人もいるかもしれません。確かに、生活習慣の改善が治療の中心であることは事実です。しかし、自己流の対策だけで済ませてしまうことには、いくつかの大きなリスクが伴います。境界型糖尿病と診断されたら、たとえ自覚症状がなくても、必ず一度は医療機関(内科、糖尿病内科、内分泌内科など)を受診すべきです。その理由は、大きく三つあります。第一に、「正確な現状把握と目標設定」のためです。自己流の対策では、自分の努力が正しい方向に向かっているのか、そして、どの程度の効果が出ているのかを客観的に評価することができません。医療機関では、定期的な血液検査で血糖値やヘモグロビンA1cの推移を正確に追跡し、あなたの状態が改善しているのか、あるいは残念ながら悪化しているのかを、数値で明確に示してくれます。また、医師や管理栄養士は、あなたの年齢や体格、生活スタイルに合わせて、具体的な食事の目標摂取カロリーや、運動の強度・頻度など、個人に最適化された、科学的根拠に基づくアドバイスを提供してくれます。これは、効果的で安全な対策を進める上での、確かな羅針盤となります。第二に、「他の病気の合併や、隠れた原因の発見」のためです。境界型糖尿病の背景には、単なる食べ過ぎや運動不足だけでなく、他の病気が隠れている可能性もゼロではありません。また、高血圧や脂質異常症といった、動脈硬化を促進する他の危険因子を合併していることも少なくありません。医師は、総合的な視点からあなたの健康状態をチェックし、必要な検査や治療を提案してくれます。第三に、「モチベーションの維持」のためです。生活習慣の改善は、一人で続けるには強い意志が必要です。定期的に医療機関に通い、医師や看護師、管理栄養士といった専門家チームから、「数値が良くなっていますね」「頑張っていますね」と励ましてもらうことは、孤独な戦いを続ける上での、大きな精神的な支えとなります。また、万が一、生活習慣の改善だけでは血糖値のコントロールが難しい場合でも、医師は、糖尿病への進行を予防するための薬物療法(メトホルミンなど)を、適切なタイミングで検討してくれます。