それは、締め切りに追われる忙しい週の、水曜日の朝のことでした。いつものように歯を磨こうと鏡に向かった私は、右側の顎のラインがいつもより少し膨らんでいることに気づきました。触ってみると、耳のすぐ下あたりがぷっくりと腫れていて、押すと鈍い痛みがあります。前日の夜まで、何の違和感もなかったのに。慌てて熱を測りましたが、表示されたのは36.5℃。全くの平熱です。頭に浮かんだのは「おたふく風邪」という言葉。でも、子供の頃にかかったはずだし、何より熱がない。それに、仕事は今が正念場。こんなことで休むわけにはいかない。私は「寝違えたか、リンパが腫れているだけだろう」と自分に言い聞かせ、痛み止めを飲んで出社しました。しかし、その日のランチタイム、悲劇は起きました。同僚と定食屋に入り、美味しそうな唐揚げ定食を頼んだのですが、一口目を口に入れ、唾液が出た瞬間に、右の耳の下に激痛が走ったのです。思わず「痛っ!」と声が出てしまうほど。酸っぱいレモンを絞ったわけでもないのに、唾液が出るだけでこんなに痛むなんて。これは、ただ事ではない。そう直感した私は、午後の仕事をなんとか片付け、会社の近くの耳鼻咽喉科に駆け込みました。医師に症状を伝えると、すぐに触診と口の中の診察をしてくれました。そして、「典型的な反復性耳下腺炎ですね。疲れてませんか?」と一言。詳しく聞くと、ストレスや疲労がたまると、唾液腺が炎症を起こして腫れることがあるとのこと。ウイルス性ではないので、人にうつる心配はないし、特効薬もない。とにかく休養が一番の薬だと説明されました。抗生物質と痛み止めを処方してもらい、医師の「無理は禁物ですよ」という言葉を胸に帰宅。その夜は仕事を忘れ、久しぶりにゆっくりとお風呂に入り、早くにベッドにもぐり込みました。翌日、まだ腫れは残っていましたが、痛みはかなり和らいでいました。熱がないからと油断し、自分の体のサインを無視し続けていたら、もっと症状が悪化していたかもしれません。この一件以来、私は自分の体の声に、もう少しだけ耳を傾けるようになりました。