山田さん(仮名)は、三十代半ばの営業職。毎朝、舌の痛みで目覚めるのがここ数ヶ月の悩みでした。最初は気のせいかと思っていましたが、日に日に痛みは増し、時には出血することもありました。朝食のトーストやコーヒーがしみて、一日の始まりから気分が落ち込みます。仕事のパフォーマンスにも影響が出始めたと感じた山田さんは、何が原因なのか真剣に考え始めました。彼の生活は、典型的な多忙なビジネスパーソンのそれでした。大きなプロジェクトを任され、連日遅くまで残業し、帰宅後も仕事のことが頭から離れません。食事は不規則で、寝る直前にコンビニ弁当をかきこむこともしばしば。ストレスと疲労が限界に達していることは、自分でも分かっていました。おそらく、寝ている間に強く歯を食いしばっているのだろう。そう考えた山田さんは、まず市販の歯ぎしり防止用マウスピースを試してみました。しかし、朝の舌の痛みは一向に改善されません。むしろ、口の中の違和感で眠りが浅くなった気さえしました。途方に暮れた山田さんは、同僚に勧められて、評判の良い歯科医院の扉を叩きました。歯科医師は彼の口の中を丁寧に診察し、こう告げました。「山田さん、あなたは歯ぎしりもしていますが、それ以上に噛み合わせに問題があります。下の歯が少し内側に倒れているせいで、舌のスペースが狭くなっているんです」。そして、彼の顎の動きや生活習慣を詳しく聞いた上で、彼専用の精密なマウスピース(スプリント)の作成を提案しました。完成したマウスピースは、市販のものとは比べ物にならないほどフィット感が良く、睡眠を妨げることもありませんでした。使い始めて一週間、あれほど毎朝続いていた舌の痛みが嘘のようになくなったのです。山田さんは、専門家に相談することの重要性を痛感しました。原因が一つではないからこそ、自己判断せずにプロの目で確かめてもらうことが、解決への最も確実な一歩なのだと、彼は今、実感しています。