私が自分の親知らずの存在を初めて知ったのは、二十歳の誕生日を目前に控えた大学二年生の冬でした。それまで虫歯一つできたことがなく、自分の歯には絶対的な自信を持っていた私にとって、それはまさに青天の霹靂でした。きっかけは、右下の奥歯に感じた、ごく僅かな違和感です。痛みというほどではなく、舌で触れると何となく歯茎が盛り上がっているような、むず痒いような感覚でした。最初は口内炎でもできたのかと軽く考えていたのですが、数日経ってもその感覚は消えません。それどころか、だんだんと鈍い痛みに変わってきたのです。食事の時に硬いものを噛むと、奥歯のさらに奥がズキリと痛むようになりました。さすがに不安になり、近所の歯科医院の予約を取りました。診察室でレントゲンを撮り、椅子に戻って待っていると、先生が神妙な顔で写真を見せてくれました。そこには、真横を向いて、すぐ隣の歯の根元に突き刺さるように生えている、真っ白な歯の影がくっきりと写っていました。「これが君の親知らずだね。見事に横向きに生えてる。これが隣の歯を押して、痛みが出てるんだよ」。先生の言葉に、私はただ驚くばかりでした。自分には親知らずなんて生えてこないタイプなのだと、勝手に思い込んでいたのです。しかも、それがとんでもない生え方をしているという事実に、一気に血の気が引くのを感じました。先生は、このまま放置すると隣の健康な歯までダメにしてしまう可能性があること、そして抜歯するなら体力のある若いうちの方が回復も早いことを丁寧に説明してくれました。その日は痛み止めの薬をもらって帰宅しましたが、私の頭の中は「抜歯」の二文字でいっぱいでした。あの日、小さな違和感を放置せず、すぐに歯医者に行った自分の判断は正しかったと、今でも思います。それが、私の親知らずとの長い付き合いの始まりでした。
私の親知らずが発見された日のこと