医療
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人によって親知らずの有無が違う謎
友人との会話で「親知らずを抜いて大変だった」という話を聞く一方で、「自分は一本も生えてこなかった」という人もいて、不思議に思ったことはありませんか。親知らず、すなわち第三大臼歯は、全ての人が同じように四本生えてくるわけではありません。生えてくる本数や時期、さらにはその存在自体に大きな個人差があるのが特徴です。多い人では上下左右に一本ずつ、合計四本の親知らずを持ちますが、一本から三本しか生えてこない人、そして一本も生えてこない人も決して珍しくありません。なぜこのような違いが生まれるのでしょうか。その最大の理由は、遺伝的な要因と人類の進化の過程にあると考えられています。親知らずが形成されるかどうかは、生まれ持った遺伝情報によってプログラムされています。ご両親や祖父母に親知らずが少ない家系では、その子孫も親知らずの歯胚、つまり歯の元となる細胞組織が先天的に形成されない「先天性欠如」となる可能性が高くなります。これは、食生活の変化と深く関連しています。火を使い、柔らかく調理されたものを食べるようになった現代人は、硬いものを噛み砕く必要があった祖先たちに比べて、顎の骨が小さく退化する傾向にあります。顎が小さくなれば、全ての歯が並ぶためのスペースが不足します。この環境の変化に適応するため、人体は最も後ろにあり、機能的にも重要度が低い第三大臼歯を、そもそも作らないように進化しているのではないか、という説が有力です。つまり、親知らずが生えてこない人は、ある意味で現代的な顎の形に進化したタイプと考えることもできるのです。自分の親知らずが何本あるのか、そしてそれがどこに埋まっているのかは、外から見ただけではわかりません。歯科医院でレントゲン撮影をすることで、初めてその全貌が明らかになります。