耳の下が腫れているのに熱がない場合、多くのケースは反復性耳下腺炎などの、比較的経過が良好なものであることが多いです。しかし、中には、似たような症状を示す、別の病気が隠れている可能性もゼロではありません。自己判断で「いつものことだ」と放置せず、以下のような病気の可能性も念頭に置き、専門医の診察を受けることが重要です。最も鑑別が必要な疾患の一つが「唾石症(だせきしょう)」です。これは、唾液腺の中や、唾液を口の中に運ぶ管(導管)の中に、カルシウムなどを主成分とする石(唾石)ができて詰まってしまう病気です。唾液の流れがせき止められるため、特に食事の時など、唾液がたくさん作られるタイミングで、耳の下や顎の下が急に腫れて激しく痛むのが特徴です。食事を終えてしばらくすると、腫れが少し引くこともありますが、何度も繰り返します。細菌感染を伴わない限り、熱は出ないことが多いです。次に考えられるのが「リンパ節炎」です。耳の周りや首には、多くのリンパ節が存在します。虫歯や歯周病、あるいは喉の炎症など、近くで起きた細菌やウイルスの感染が原因で、リンパ節が腫れて痛むことがあります。耳下腺の腫れと場所が近いため、間違えやすい疾患の一つです。通常は原因となる感染巣の治療を行えば、腫れも引いていきます。また、「顎関節症」も、耳の下の痛みとして感じられることがあります。口を開け閉めする時に顎の関節がカクカク鳴ったり、痛みを感じたりするのが特徴で、関連痛として耳の下あたりが痛むことがあります。腫れを伴うことは少ないですが、痛みの場所が似ているため、鑑別が必要です。さらに、頻度は低いですが、最も見逃してはならないのが「唾液腺腫瘍」です。耳下腺や顎下腺にできる腫瘍で、その多くは良性ですが、中には悪性のもの(がん)も存在します。腫瘍の場合は、通常、痛みはあまりなく、硬いしこりとして触れるのが特徴です。数週間から数ヶ月かけて、ゆっくりと大きくなっていきます。このように、耳の下の腫れという一つの症状にも、様々な原因が考えられます。特に、しこりのように硬く触れる、徐々に大きくなっている、といった場合は、放置せずに必ず耳鼻咽喉科を受診し、超音波検査やCTなどの詳しい検査を受けるようにしてください。